タブレットの運用を通じて得た教訓
藪上氏が言うように、姫路市が2013年に導入したタブレットは多くの問題を抱えていた。問題の1つはバッテリーの劣化による稼働時間の短さだ。導入当初は重い処理を行っていても1時間以上の連続稼働は可能だったが、導入から4~5年が経過すると通常の利用で30分程度しかバッテリーが持たないものも出始め、授業にならないケースが増えていた。
2つ目の問題は、授業での使い勝手だ。
「授業時間は限られており、教材として使用する端末はすぐに起動し、使える状態になるのが理想です。ところが従来のタブレットは起動のたびに設定を初期化する処理が走ることから、ログインに相応の時間を要していました。また、液晶画面が常に露出しているので、子どもたちが授業中に落として画面が割れたりすることが間々あったほか、逆に、壊れてしまうのを恐れるあまり、子どもたちや先生たちが取り扱いに慎重になりすぎたりするシーンも多くありました」(坂田氏)。
実際、子どもたちや先生たちがストレスを感じながらタブレットを使っているようなところがあり、授業での活用も想定したほどには進んでいなかったという。
「ゆえに、子どもたちや先生たちに何のストレスも感じさせずに、必要なときにすぐに使える頑丈で起動・稼働のパフォーマンスに優れた端末を求めていました」(坂田氏)。
従来タブレットのもう1つの問題は、端末やアカウント情報の管理やOSの更新、セキュリティ修正プログラム(セキュリティパッチ)の適用など、運用管理に相応の手間がかかることだった。
「従来のタブレットは1,500台の運用で、初期化ソフトも使用していたため、管理面でかなり厳しく、OSのアップデート一つにしても難しい状況でした。その台数が倍の3,000台、更には4万3千台超となると、従来のタブレットと同じアーキテクチャの端末ではとても適切な運用管理が行えないとの懸念がありました。また、初期設定・キッティングについても従来のやり方では相当の工数が掛かることが想定されました」(藪上氏)。
こうしたことから姫路市では、新たな端末の調達に際して「最低13時間のバッテリー駆動が可能なこと」「落としても壊れないような堅牢性を備えていること」「大量の端末の運用管理が一元的に、かつ少人数で行えること」といった点を重要な要件として設定した。
「13時間のバッテリー駆動という要件は、バッテリーの経年劣化で駆動時間が公称値の半分になっても日々の学習で問題なく使えることを想定したものです。私たちは、GIGAスクール用の端末について授業時間内だけで使うのではなく、子どもたちが常に自分の身近に端末を置いて休み時間でも自由に使ってもらいたいと考えました。そうした日常的な使用を想定してバッテリー駆動時間の要件を定めました」(坂田氏)。
加えて、姫路市ではキーボードを備えたノートPCタイプであることも要件とした。理由は、使わないときに画面を閉じて液晶を保護する目的と小学生のころからキーボード操作に慣れてもらうためだ。
「子どもたちが大人になり、ICT端末を仕事で使う際には必ずキーボードも使うはずです。いずれキーボードを使う必要が出るのであれば、早い時期から扱いに馴れておくに越したことはありません。小学校低学年にはキーボードの扱いは無理と考えがちですが、子どもたちの吸収力は大人の想像をはるかに超えています。日常的に活用することで、アルファベットを習っていなくても、キーボードの扱いをすぐに覚えてしまうのです」(坂田氏)。