人とデバイスと場所を切り離す/緊急時に在宅勤務を即決できた理由とは

この半年で大きく変化した「働く場所」の捉え方

一連の自粛や緊急事態宣言の後も企業のビジネスは大きな制約を受け続けている。中でも大きな影響を受けているのが、オフィスをはじめとする「場所」を中心とした働き方ではないだろうか。 出社できない、過密を避けなければならないという状況は、 従来の働き方を根本から揺るがしている。

しかし、こうした事態や変化をものともせず、即座に新しい働き方に移行して、事業を継続し続けている企業もある。その1社がSIerのクオリカだ。

同社はコマツの全額出資で設立された「小松ソフトウェア開発株式会社」を前身とする企業。2000年に株式会社東洋情報システム(現在のTIS株式会社)の傘下となり、現在はTISインテックグループの一員として、製造業や流通・サービス業を中心とした多くの顧客企業に対し、長年密着して培ってきた業務知識やノウハウを生かしたサービスを提供している。

では、クオリカは、どうしてスムーズに全社的な在宅勤務への移行を実現できたのか。背景には、同社がもともと考えてきた「人」と「デバイス」「場所」をひも付けないということ、そして、それを具現化するためのVDI(Virtual Desktop Infrastructure)の活用がある。以下では、それらを解説していく。

メールもつながらない。10年前の苦い経験とは

クオリカ株式会社 執行役員 CTO イノベーションテクノロジー本部長 坪口 智泰 氏

クオリカがVDIを導入したのは2011年。東日本大震災における苦い経験がきっかけだ。

「震災が発生して、社内でも様々なことに直面しました。例えば、オンプレミスのメールサーバーが止まってしまい連絡が取れない状況に陥り、急きょ、コンシューマー向けのサービスで社内連絡を取り合ったりしました」と同社の坪口 智泰氏は振り返る。

このことをきっかけに、同社は事業継続計画について再検討。オンプレミスのメールサーバーは、クラウドサービスにリプレースするなど、社内システムを大きく見直した。

このとき、併せて大きく見直したのがPCだ。

「PCを調査すると、会社の備品であるにもかかわらず、個人の所有物であるかのように人と密接にひも付いていました。壁紙や導入アプリケーションは人ごとにカスタマイズされ、それがないと仕事ができない。つまり、仕事をするにはPCがあるオフィスに来なければいけない状態だったのです」と坪口氏は言う。

この状態のまま、単にノートPCでモビリティを高めてもPCには大量の業務データが保管されているため、セキュリティの問題が残る。そこで、同社が目指したのがVDIの導入である。

「VDIなら、どのデバイスの前に座っても、変わらず、いつも同じように仕事が行える。デバイスにはデータが残らない上、サーバー側で一元管理できるため、セキュリティやガバナンスも利かせやすい」と坪口氏は話す。

同社はVDIの導入と同時にBYOD(Bring Your Own Device)も許可して、人とデバイスだけでなく場所も切り離した。「モバイルの配布ではなく、BYODを選択したのは、PCを大量に買うより、そのコストをセキュリティ対策やVDIの使い勝手を大きく左右するネットワークの増強に充てたほうが効率的と判断したからです」と坪口氏は言う。

VDIの良さを引き出す最適なシンクライアント

クオリカ株式会社 プラットフォームサービス事業部 プラットフォームサービス推進室長 小渕 崇 氏

現在、クオリカのVDI用のシンクライアントは、管理性、セキュリティ、堅牢性の高さなどを評価してデル・テクノロジーズの「Dell Wyseシンクライアント」が採用されている。

具体的にDell Wyseシンクライアントは、「ゼロコンフィグレーション」によって、箱を開け、ネットワークに接続し、電源を入れるだけで利用を開始できる。また、Wyseが搭載しているThinOSは、デル・テクノロジーズによると20年間一度もハッキングされておらず、極めて高度なセキュリティを実現している。

「VDI導入の目的としてセキュリティを真っ先に挙げるケースは多いのですが、VDIだけではセキュリティを担保することはできません。VDIにアクセスするデバイスまでセキュアであって初めて高いセキュリティを確保できるのです」とクオリカの小渕 崇氏は語る。

また、Dell Wyseシンクライアントは内部構造が極めてシンプルで故障が非常に少ない。「予備の代替機のことを、ほとんど心配する必要がないくらいです」と坪口氏は言う。

Dell Wyse 3040 シンクライアント

クオリカが導入したDell Wyse 3040 シンクライアント。VDIサーバーと通信してモニターに仮想デスクトップの画面を表示する

動揺する社会に先駆けて、在宅勤務への移行を即座に決断

このように、震災を受けてVDIを整備したことが、今年大いに奏功したわけだ。

実際には、緊急事態宣言が出る前の2020年3月には、ほぼ全社員を在宅勤務へと切り替え、4月1日の入社式もオンラインで実施した。社員の多くはBYODで在宅勤務を行ったが、業務可能なデバイスを持っていなかった新入社員などには、緊急に約30台のDell Wyseシンクライアントを配布した。「システム的には以前のまま。人が環境を変えただけで、業務は全く止まらずに継続しています」と坪口氏は強調する。

しかも、在宅勤務への切り替えは、社員にとって前向きな変化と受け止められている。

クオリカが実施した社内アンケートによると、社員の多くが「在宅勤務によって生産性が向上した」と回答し、以前より満足度が高まっているのである。理由は、通勤時間が不要になったこと、作業中に割り込みが発生しないことなど。この結果を受け、現在、同社は在宅勤務を中心に据えた人事制度を検討し、10月から切り替え始めている。

システム面では、在宅勤務が中心となる社員に対してはノート型のDell Wyseシンクライアントを配布することも検討。「10年前のVDI導入時は、できるだけ標準化することが大きなテーマでしたが、在宅勤務中心となるこれからの変化においては、プライベートな事情で一人ひとり異なる環境にいかにフィットさせるかが重要になると考えています。選択肢が豊富なWyseクライアントは優位性があります」と小渕氏は話す。

約10年間VDIを運用し、今回の大きな変化も経験した同社。この経験は、顧客に向けた提案やサービスにも反映されている。

具体的に、クオリカはDaaS型サービス「Thin Office」を中心とする提案で企業のスムーズなVDI導入、およびワークスタイル改革を支援してきた。今後は、ここに在宅勤務へのスムーズな移行、および実践に関する知見も追加していく。

「移動や過密のリスクを抑止し、自宅やサテライトオフィスも含めた多様な場所で働く。働き方のニューノーマルに対応するための成功体験を蓄積し、それをソリューションにまとめ、お客様に提供していきます」と坪口氏は意気込みを語った。

Dell Wyse 5470 モバイルシンクライアント

用途に応じて、多様な選択肢を用意している点もDell Wyseシンクライアントシリーズの特長

日経BP社の許可により、2020年10月27日~ 2021年3月21日掲載 の 日経 xTECH Active Specialを再構成したものです。

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