国立循環器病研究センターが選んだ「新端末」と選定時の「3つの基準」

施設移転を機に情報システムの刷新と端末の入れ替えを実施

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 情報統括部長/医療情報部長 博士(工学) 平松 治彦氏

「循環器疾患の究明と制圧」を目的として、ハイレベルな研究と最先端の治療に努める国立循環器病研究センター(以下、国循)。脳卒中と心臓血管病の専門的治療と研究を行う世界有数の医療施設である。人工心臓の開発、日本初の脳卒中集中治療室の実現、120例を超える心臓移植の実施など多くの実績を上げている。

国循の創設は1977年6月。施設は設立から40年以上が経過し、老朽化が進んでいた。そこで広大な敷地を有するJR東海道本線の吹田操車場跡地に移転。新しい国立循環器病研究センターが2019年7月1日にオープンした。

この移転に合わせて実施したのが、情報システムの刷新である。最先端の研究と医療を推進するためには、その活動を支える情報システムも先進のものでなければならない。「情報ネットワークシステム、病院情報管理システム(HIS)、情報システムのほとんどを更新・再構築しました」。こう話すのは国循で情報統括部長/医療情報部長を務める平松 治彦氏だ。

システムは全面的に仮想化し、VDI(仮想デスクトップ)を実現。診療データを統合的に管理するための統合データベースも構築した。さらに毎日使う端末も、システム刷新の一環として入れ替えを行った。

というのも以前は複数メーカーの端末が混在しており、様々な問題が顕在化していたからだ。

「以前は誰がどんなアプリケーションやPCを使っているかの特定が容易ではありませんでした。エンドポイントセキュリティとしてアンチウイルスを導入していますが、最新のシグネチャに更新されているか把握できない。端末のトラブルが発生しても、メーカーや機種がバラバラでサポートが大変。そんな状態だったのです」と平松氏は振り返る。

こうした課題の解消に向けて同センターでは3つの基準のもと、端末を選定した。次ページではその基準とVDIシステムと新端末による効果を紹介したい。

業務に欠かせない端末を選ぶ「3つの基準」とは?

前述したように、国循では端末も含め、ほとんどの情報システムを刷新したが、その取り組みは3つの指針に沿って進められた。

1つ目は「ハードウエア、ソフトウエア、データの分離」である。「複数の情報システムが保有するデータの二次利用性を高めるのが狙いです」(平松氏)。

2つ目は「利便性の向上と情報セキュリティの確保」だ。新しい情報システムのメインユーザーは医療現場の医師や看護師、医療事務を担う職員たち。秘匿性の高い情報を扱うだけに情報セキュリティを確保することはもちろんだが、それによって利便性が損なわれるようでは意味がない。むしろセキュリティをなるべく意識させることなく、利便性を向上することを念頭に置いたという。

3つ目が「調達や運用に関するコスト抑制」である。「同様の機能を持つ重複システムの回避、ソフトウエアライセンスの統合などにより、共通化・統合化を推進。調達や管理も一括化し、コストを抑制しました」と平松氏は語る。

Dell Wyse 5070の外観

プロセッサやグラフィックス、メモリなど最適なコアコンポーネントを選択可能。OSもWindows 10 IoT Enterprise、Wyse ThinLinux、デル独自のWyse ThinOSから選択できる。4Kマルチディスプレイ環境にも対応し、幅広い用途で利用できる

プロセッサやグラフィックス、メモリなど最適なコアコンポーネントを選択可能。OSもWindows 10 IoT Enterprise、Wyse ThinLinux、デル独自のWyse ThinOSから選択できる。4Kマルチディスプレイ環境にも対応し、幅広い用途で利用できる

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター バイオバンク データリソース管理室長 糖尿病・脂質代謝内科 医長 博士(医学) 野口 倫生氏

こうした基準に沿って、国循ではHIS調達の公開入札を実施。その結果、選定されたのがデル・テクノロジーズである。

VDIのためのシンクライアント端末にはデスクトップ型の「Dell Wyse 5070」とノート型の「Dell Latitude 3480」を合計約2000台導入。さらに非VDI環境で利用するFAT端末としてデスクトップPCの「Dell OptiPlex」、ノートPCの「Dell Latitude」を合計約200台導入した。

従来のデスクトップ端末のモニターは19インチだったが、今回の刷新を機に23インチのものに替えた。「診療画像はより大きなエリアを表示し、より細かいところまで鮮明に見られるようになりました。複数のアプリを立ち上げて医療業務を行うときも、画面が大きいと作業もやりやすい」と国循の糖尿病・脂質代謝内科 医長 野口 倫生氏は話す。

シンクライアント端末以外にFAT端末も調達した理由について、平松氏は次のように述べる。

「検査機器によってはVDIで利用するために特定のソフトウエアや接続が必要になるものもある。また、手術動画などの参照には高いパフォーマンスが求められる。現時点ではすべての利用環境をVDI化することが難しいため、FAT端末との使い分けを選択したのです」

自分の端末で院内のどこでも電子カルテを確認できる

新情報システムは一般用、事務用、HIS用を含め、いずれのシステムもVDI化する計画だ。一般用と事務用システムはすべてVDI化を実現した。

「患者の症状によっては、別の病棟に搬送が必要になることもある。移転前は拠点が異なるとネットワークの接続環境も異なり、電子カルテを見るためにノートPCを持っていても、設定変更が必要でした。現在は施設内すべてに無線LAN環境が整備されたため、拠点が違っても、そのまま端末を使い続けられます」と平松氏はそのメリットを述べる。

Dell Latitude 3480の利用イメージ

幅337.4mm×奥行244mm×高さ23.3mm、重さ約1.76kgのコンパクト設計。持ち運びに便利で、施設内のどこでもシステムにアクセスできる。デスクの上では場所を取らずに快適に作業できる

診療業務におけるメリットも大きい。「以前は病棟や外来の診察室以外で電子カルテ用の端末が医局などに限られており、患者の電子カルテはそこに行かなければ閲覧できませんでした。HISのVDI化により、ノート型端末を持っていれば、その場でカルテ情報の確認ができます」(野口氏)。

患者が緊急搬送されてくるときも、電話を受けたその場で電子カルテを確認できる。「従来は医局などまで移動して急いで電子カルテを確認しなければならなかった。そんな慌ただしさからも解放されます」と野口氏は続ける。

VDIはコロナ禍の業務継続にも寄与した。「在宅で仕事が可能な事務業務はリモートワークを解禁し、在宅で作業してもらいました。今回はコロナ禍の緊急的な対応でしたが、VDIによってセキュアにリモートワークできることを実証できました」と平松氏は評価する。

一方、FAT端末は手術動画や診療画像を3D化して確認するなど、端末に高いパフォーマンスが求められる用途に利用している。これも施設内全域に無線LAN環境を整備したことで、どこでも利用可能だ。また認証情報はシンクライアント端末、FAT端末ともに一元管理を実現し、再認証レスで多様なシステムにアクセスできるようになっている。

ITを積極活用し「最先端の、その先の医療」を目指す

今後はHIS環境にある検査機器との接続、手術動画などのスムーズな視聴をVDIで実現することを目指す。HISのシステムもすべてVDI化できれば、施設内のどこでも利用できるようになる。最先端の研究と医療の融合がさらに進むだろう。

VDIはデスクトップ環境をサーバー側で一元管理するため、端末セットアップの手間を激減できる。端末ごとにセキュリティパッチを適用する必要もない。VDIの適用領域が広がれば、管理性やセキュリティ面でのメリットもより大きなものになる。

国循は医療機関であると同時に世界有数の研究機関でもある。医療の信頼と発展のためには、ITの活用が欠かせない。「施設内のどこからでも、どんな端末でも、必要な情報にセキュアにアクセスできるようにしたい」と話す平松氏。これからも国循では最新の技術や情報セキュリティの動向をキャッチアップし、「最先端の、その先の医療」の実現を目指す考えだ。

未来の医療”の期待を担うゲノム解析基盤を刷新

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター バイオバンク 鷲田 義一氏

国立循環器病研究センターは、研究活動の一環として「バイオバンク」を運営している。「血液や手術・検査時に摘出された組織の一部(生体試料)を診療情報と併せて保存。これらの生体試料など遺伝子やたんぱく質などのレベルで解析し、病気の原因や予防法、治療法などを研究・開発する研究者に利用審査を行った上で提供しています」と野口氏は説明する。

最近の解析手法は遺伝性要因を網羅的に調べる「全ゲノム解析」が注目されており、がんや難病などの医療の発展や個別化医療の推進などを目的として行われている。この手法は1つの解析単位が100GBもの超大容量になる。以前の仕組みは蓄積基盤と解析基盤が別で運用面に課題があった。いずれストレージ容量も不足する。

そこで施設移転を機に、システム調達の入札を行い、デル・テクノロジーズのラックサーバー「Dell PowerEdge R740」とストレージ「Dell Isilon」を導入し、ストレージ総容量240TBの新たなデータ蓄積・解析基盤を実現した。「膨大なデータを統合的かつ体系的に保存できるようになり、同一基盤上で解析もやりやすくなった」と国循の鷲田氏は評価する。

現在は本格的な研究・開発のためのデータ蓄積を進めているところだ。まもなく、新しい基盤で〝未来の医療”のための全ゲノム解析を開始する。

日経BP社の許可により、2020年12月15日~ 2021年3月15日掲載 の 日経 xTECH Active Specialを再構成したものです。

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