三協立山事例/働き方の変化に伴って全国4000台のPCを統合バックアップ

働き方の変化に伴いバックアップの対象と要件が多様化

三協立山株式会社 情報システム統括室 システム企画部 部長 高畑 裕紀氏

データはデジタル時代のビジネスを支える重要な情報資産である。そのデータの多くは、ビジネスの現場で生み出されている。データが故意/不意にかかわらず消失してしまったり、端末障害やサイバー攻撃などでデータが使えなくなったりしたら、ビジネスは立ち行かなくなる。あらゆる不測の事態に備えてデータを復旧可能な施策を講じておく。これはデジタル時代のビジネスにおける鉄則である。

それが故、データバックアップの対象が急速に広がりを見せている。働き方改革の一環として、モバイルワークを解禁する企業が増えているからだ。データが保存されているPCを社外で利用するため、不意な誤操作や、盗難・紛失などのセキュリティ面でのリスクがより大きくなる。社内ネットワークにつながるPCだけでなく、社外にあるPCのデータバックアップとリストアも考えなければならない。

コンプライアンス対応も重要な要件だ。例えば、顧客情報が入ったPCを盗難・紛失した場合、情報が悪用されることを念頭に置き、早急に影響範囲を把握する必要がある。どこに、どんな情報が、どれだけ入っていたのか。そのデータを盗難・紛失したPC以外からでも見える化することが必要になってきた。バックアップデータが利活用できる新たな側面だ。

これに加え、コロナ禍による働き方の変化が新たな対応を迫っている。通常出社が困難な状況でテレワークの利用が一気に拡大したからだ。しかし、すべての従業員が十分なITリテラシーを持つとは限らない。巧妙な攻撃手法に気付かず、うっかり添付ファイルを開いたり記載されたURLにアクセスしたりすると、マルウエアに感染する。テレワークの急拡大に伴い、サイバー攻撃を想定したデータバックアップの必要性も高まっている。

ただPCのデータバックアップ作業は予想以上に大きな負担だ。大規模な企業になればテレワークで利用する端末は数千台にも上ってしまう。そうした中、多様化するバックアップニーズに対応し、働き方改革を推進する企業がある。アルミ建材大手の三協立山である。同社では、新たな仕組みでPCのデータバックアップを高度化・効率化。様々なリスクへの対応を実現している。同社の取り組みをひも解き、デジタル時代に求められる最適なデータバックアップ手法を考察してみたい。

急速なリモートワーク化により、バックアップ対象PC台数が10倍に増加

三協立山株式会社 情報システム統括室 システム企画部 運用課 課長 今泉 嘉幸氏

三協立山は富山県高岡市に本社を置く、建材・マテリアル・商業施設・国際事業を展開する企業グループである。アルミサッシなどのビル用建材・住宅用建材、エクステリア建材の開発・製造、国内最大級の生産能力を生かしたアルミニウムおよびマグネシウム合金の鋳造・押出・加工に加え、店舗用汎用陳列什器なども製造・販売し、海外でも事業を展開する。新しい価値創造にも積極的に取り組んでいる。外気を二重窓の内部で循環させることで、気密・断熱性を保ちつつ換気が可能な「DI窓」は、今までにない新しい窓として注目を集めている。

その同社は早くから働き方改革に取り組み、全国の営業担当者400人にタブレットを支給し、モバイルワーク環境を整えた。「ビジネスを支えるITについては、5年先を見据えて新しいことにチャレンジする。これをモットーにしています」と三協立山の高畑 裕紀氏は話す。

社外利用の端末が増えれば、盗難・紛失の危険性も高まる。そこで同社は2015年にデル・テクノロジーズのバックアップソリューション「Dell EMC Avamar」(以下、Avamar)を導入した。「Avamarはネットワークに負荷をかけることなく多拠点の大量データをバックアップし、1カ所で一元的に集中管理できる。これは他社にはない大きな強みです」と同社の今泉 嘉幸氏は評価する。

データをバックアップしておけば、端末を盗難・紛失しても代替機にデータを復旧することが可能だ。しかし、同社が考えるバックアップポリシーはこれだけにとどまらない。盗難・紛失によって第三者へのデータ流出の恐れもある。端末内に記録されていた個人情報などの把握が企業の信頼を維持するためには責務かつ急務になるが、利用者の記憶に頼るのには限界がある。「その対応策として、記録データを迅速に把握・復旧できる仕組みが必要だったのです」と高畑氏は主張する。

その後、同社では働き方改革の取り組みが本格化。営業以外からも客先での提案や打ち合わせにPCを使いたいという声が数多く上がるようになった。このニーズに対応するためには、バックアップ対象端末を大幅に増台しなければならない。

「対象端末は現行のタブレット400台のほぼ10倍、モバイル端末やノートPCを含め、全国で約4000台にまで拡大する計画を立てました。既存の環境ではこれだけの規模のバックアップはできない。しかし、導入コストは可能な限り抑えたい。相反する要件を満たすソリューションを求めていました」と今泉氏は語る。

従来製品と同等コストで10倍の端末バックアップが可能

バックアップ規模を拡大し、なおかつ導入コストを最適化する。この要件を満たすソリューションとして同社が選定したのが、コンバージド型の統合データ保護アプライアンス「Dell EMC Integrated Data Protection Appliance(IDPA) DP5800」(以下、DP5800)である。

これはストレージおよびデータ保護ソフトウエア、さらに検索・分析機能のすべてを1つに統合したコンバージド型ソリューション。短期間で導入でき、バックアップ/リストアの処理も非常に高速だ。Avamarの強みである多拠点データバックアップの一元管理とシンプルな運用性も継承している。平均55:1の重複排除機能を有し、ストレージリソースも有効活用できる。

「これまでのAvamar稼働実績から、デル・テクノロジーズ製品の機能や品質は高く評価していました。同じデル・テクノロジーズ製品なので、安心して導入できると判断しました」と高畑氏は選定の理由を述べる。

しかも、コストは導入済みのAvamarとほぼ同等で済む。「同等のコストで10倍の端末のデータバックアップが可能になる。非常に優れたコストパフォーマンスも大きな魅力でした」と今泉氏は続ける。

こうして同社は2020年8月にDP5800を正式導入した。「導入作業に立ち会いましたが、SEによるセットアップは3日ほどで完了。チューニングやテスト作業も含めて約2週間で稼働を開始できました。コンバージド アプライアンス製品としての完成度の高さを実感しました」と同社の松本 行央氏は振り返る。

稼働開始後は、まず以前から利用する400台のタブレットを対象にDP5800への移行を開始。Avamarからの切り替えも1カ月以内で完了した。現在は新たに対象に加わる4000台の端末のバックアップ設定を順次進めているところだ。

IDPA DP5800の筐体

データバックアップに必要な保護ストレージ、ソフトウエア、検索・分析機能などを統合したアプライアンス製品。膨大な端末の一括管理が可能で、処理も高速だ。シンプルな操作でバックアップ/リストアの作業も効率化できる

社員が安心してテレワークできるための包括的なデータ保護を実現

三協立山株式会社 情報システム統括室 システム企画部 運用課 副参事 松本 行央氏

既に1000台以上の端末のバックアップ設定を完了した同社は、DP5800の本格運用を開始している。バックアップスケジュールは平日10時30分から15時30分までに設定。この間にDP5800側が端末を無作為に抽出し、自動でバックアップを行う。

「バックアップ端末が約1000台の段階で処理時間を調べましたが、午前中にすべて完了していました。このパフォーマンスなら4000台になっても問題なく時間内で完了する見込みです」と松本氏は話す。端末への影響もほとんどないため、従業員はバックアップが実行されていることを意識することなく、業務に専念できるという。

高度な圧縮・重複排除機能により、ストレージに保存するデータ量も実データのおよそ100分の1で済む。「今後の運用でデータ量が増大しても、ストレージのひっ迫を気にせず利用していけます」と松本氏は続ける。

運用面でも様々なメリットを実感している。DP5800はバックアップ処理のパフォーマンスを一括で管理・調整できる機能がある。「バックアップ端末が増えたことから、一度パフォーマンスが低下したことがあったのですが、CPU使用率やネットワーク帯域などを調整するなど『かゆいところに手が届く』機能が盛り込まれているので簡単にパフォーマンスを最適化できました。今では帯域が限られるリモートアクセス回線でも問題なくバックアップが可能です」(今泉氏)。

近年はPC本体にHDDが固定され、取り外しのできない機種も増えており、HDDコピーによるデータ復旧は難しい。「DP5800はリモートでのデータリストアに対応し、その手順も非常にシンプル。新たにPCを受け取り、1日あればデータを復旧できる。業務への影響を最小化できる上、データ復旧作業も大幅に効率化されます」と松本氏は満足感を示す。

同社のデータバックアップは、当初PCの盗難・紛失の際にデータ内容を確認し、リスクを事前に把握することに重きを置いていた。しかし、コロナ禍によるテレワークの拡大に象徴されるように、今後はオンサイト対応が制限された状況下や、サイバー攻撃により消失してしまったデータの復旧や被害状況の把握を迅速に行うことがより重要になる。

「DP5800の導入は以前から計画していたことですが、結果的にコロナ禍による在宅勤務時のデータ保護の強化につながっています。今回の導入により、コンプライアンス対応に加え、働き方の変化を見据えたリモートワーク環境への支援やサイバーリスク対策も強化できたことが最大のメリットです」と高畑氏は語る。

ビジネスに欠かせないデータを保護し、安心して業務に専念できる環境を提供する――。これは情報システム部に課せられた重大な責務である。既に三協立山は持ち出しPCだけでなく、据え置きのデスクトップPCやワークステーションなどもデータ保護の対象に加えるべく、バックアップ環境のさらなる強化に向けた検討を開始している。

日経BP社の許可により、2021年1月8日~ 2021年4月1日掲載 の 日経 xTECH Active Specialを再構成したものです。

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