IT部門の「現在」と「未来」 戦略的な「やらない選択」が重要に?

コスト削減や生産性向上から新しいビジネスへの貢献へ――。IT部門に求められる役割が変わりつつある。この期待に応えるには、限られたリソースの中でIT部門自身が大きな変革を果たす必要があるだろう。特に重要なのは戦略的に「やらない選択」を行うこと。ここではDXの進展に向けて、必要なIT部門の役割を改めて俯瞰するとともに、着目すべき課題をピックアップ。その課題解決に向けた解決策と将来ビジョンを考えてみたい。

新しいビジネスへの関与が求められるDX時代のIT部門

デル・テクノロジーズ株式会社
システムズエンジニアリング統括本部
プリセールスソリューションアーキテクト
宗岡 匠氏

コロナ禍で急速に加速することになったDX。その背景には消費者を中心に「場所に依存した物理的な体験」から「デジタルで拡張された体験」へのシフトが進んだことがある。

IDCの予測によれば、グローバル経済でも2022年には、GDPの65%がデジタル化されるという。リアルからデジタルへのシフトについては以前からもいわれていたことだが、これに加えて消費者行動が多様化したことも、注目すべき変化だといえるだろう。

「このような変化に対応していくには、個人レベルでの顧客体験の最適化が求められます。自分たちの価値を再定義しなければ淘汰される時代は、従来の予想以上に早く到来することになるでしょう」と指摘するのは、複数の日本企業でITインフラアーキテクトやCDO補佐を務めた経験を持つ、デル・テクノロジーズの宗岡 匠氏だ。

こうした状況に危機意識を高める日本企業も増えている。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査報告書 2021」によれば、IT投資で解決したい中長期的な経営課題として「ビジネスモデル変革」を挙げる回答が、2019年度から2020年度の間に約2倍になっているのだ。

ビジネスモデルを変革していくには、自社が集められるデータに価値を与え、そのデータを使ったソリューションを提供することが求められる。日本でも、データを活用したビジネスモデル変革へと、大企業を中心とした多くの企業が乗り出している。

こうした変革の時代では、これまでとは違った事業ポートフォリオ戦略も求められる。従来は「持続的イノベーション(既存のビジネスモデル)」だけで成長を続けることができたが、現在ではこれに加えて新たなビジネスモデルを生み出す「破壊的イノベーション(新しいビジネスモデル)」も欠かせないものになっている。これらは車の両輪であり、両方を適切にマネジメントしていかなければならない。

これに伴いIT部門に求められる役割も大きく変わりつつある。「IT部門にこれまで求められていたのは、既存のビジネスモデルを安定的に支えること。中でもコスト削減から生産性向上といった領域でした。しかしデジタル技術で破壊的イノベーションを起こしていくには、新規事業を開発したり、拡大したりすることが強く求められるようになります。また既存のビジネスモデルにおいても、これからはAIなどのデジタル技術を活用した高度化が求められます。ここでもIT部門には、重要な役割を担うことが要求されています」。

戦略的な「やらない選択」を可能にするAPEXの活用

既に多くのIT部門は、レガシーITを刷新するといった重要案件を抱えている。これに加えてこれだけ対応すべき領域が拡大してしまえば、従来と同じやり方でカバーすることは、当然ながら困難だ。そこでIT部門に求められるのが、戦略的な「やらない選択」なのだと宗岡氏は説明する。

「IT部門から切り離せるところは切り離す。その重要性が高まっています。その1つのアプローチが、既存のIT部門から独立した形でのDX部署の設置です。これは王道のやり方ですが、これによって新たな問題に直面するケースも増えています」

その問題は、DXでクラウド利用が急速に進むことで、無計画で無秩序な利用状況が広がってしまうことだ。既存業務はIT部門が面倒を見ているためガバナンスを効かせやすいが、DX部署が担当する領域はIT部門の関与が薄くなり、シャドウITが乱立しやすくなるわけだ。その結果、セキュリティ上の問題はもちろん、ムダなリソース利用が可視化されない状態で増えていくことで、財務上の問題も生じることになる。

この問題を回避する、有効な手段となるのがITリソースをクラウドのように利用できる「APEX」の活用だ(企業ITに創造的破壊をもたらす「APEX」の衝撃)。APEXのリリースが先行した米国では、既にこれを活用して大きな効果を出している事例が次々に登場。宗岡氏はその一例を次のように説明する。

「この企業ではIT費用総額の45%、スタッフの35%がシャドウITに費やされており、パブリッククラウドコストの90%がシャドウITで占められていました。しかしこれらのシャドウITのほとんどはDX案件であり、既存インフラに乗せるのは現実的ではありません。そこで浮上したのが、パブリッククラウドでも従来のオンプレミスでもない、第3の選択肢であるAPEXだったのです」(図1)

高い柔軟性と安定性を両立させた、現実的なロードマップが、APEXによって可能になる

APEXであれば、パブリッククラウドと同様に、サービス開発の迅速化やシームレスなシステム拡張が可能になる。その一方でインフラの実態はオンプレミスであるため、安定したアーキテクチャを維持しやすく、サイバー攻撃への対策も行いやすい。さらに、オンプレミスで培ってきた運用ナレッジも有効活用が可能だ。

「これまでのシステム形態の延長にある上、“技術的負債”とならない最新テクノロジーも活用できる、現実的なロードマップが描けると評価されたのです」(宗岡氏)

パートナーの「上位レイヤー」と組み合わせた提供も

それではAPEXでは、具体的にどのようなロードマップが描かれているのか。

まずITインフラ全体をAPEXに取り込んでいくことで、ITインフラ運用の運用主体をデル・テクノロジーズへと移行させる。これで戦略的に「やらない選択」を行い、より上位のレイヤーに人材を戦略的に再配置できるようになる。また。これによって統一されたITインフラとITマネジメントを確立することで、セキュリティ戦略や財務戦略の最適化も実現可能になる。

このような形でDX推進の基礎が構築されれば、デジタル戦略上重要な施策に集中できるようになる。既存システムを意識した、より現実的なデータ基盤の整備や、そのデータを活用してビジネスニーズを満たすアプリケーションの柔軟な開発・拡張、これらによる顧客体験の最適化が可能になっていくわけだ。

「先ほど紹介したJUASの調査でも、6割近くがIT基盤における今後の優先課題として『ビジネスに柔軟かつ迅速に対応できるIT基盤の構築』を挙げています。APEXをうまく活用することで、この課題を解決することが可能です」(宗岡氏)

もちろん、企業としては、ITインフラだけが最適化されても意味がない。その上位のアプリケーションやミドルウエアを含めて、最適化する必要があるからだ。

そこでデル・テクノロジーズでは、パートナーシップ戦略を推進。上位ソリューションと組み合わせてAPEXを提供する、という取り組みが進められている。「サービス提供のレイヤーで考えれば、APEXだけではIaaSプロバイダーにとどまってしまいますが、上位レイヤーのパートナーソリューションを組み合わせることで、PaaS相当のエクスペリエンスをお客様に提供することが可能になります。これを戦略的パートナーと共に実現することで、お客様が自社のDXにより集中できる環境を整備していこうと考えています」(宗岡氏)(図2)。

より上位レイヤーのパートナーソリューションも組み合わせて提供することで、ITインフラのみの「IaaSプロバイダー」から「PaaSプロバイダー」へと、自らを変革することが目指されている

現在も様々なソリューションが検討されている。幅広い業界で共通して利用できるミドルウエア的な「業界横断型ソリューション」や、特定の業種に特化したものも想定しているという。こうした広範なパートナーシップが可能なのも、IT業界で長きにわたってリーダーとしての役割を果たし続けてきたデル・テクノロジーズだからこそだといえるだろう。

加えて注目すべきは、同社が日本企業のITの現場を熟知しているという点だ。日本法人の設立から30年以上にわたって、日本市場にシステムを展開してきており、そこで築いてきたネットワークや人材、ノウハウは、日本企業のソリューション展開に大きな武器になる。

「クラウドの乱立を回避し、ガバナンスを担保しながらDXを推進していくには、このようなプラットフォームを積極的に活用して戦略的な『やらない選択』を行いつつ、IT部門が中心になって全社標準化を進めていくべきでしょう。デル・テクノロジーズ自身もAPEXを起点に変革しています。今後もそこで得た知見をAPEXにフィードバックし、IT部門の変革を支援し続けていきます」と宗岡氏は語った。

日経BP社の許可により、2022年7月28日~ 2022年8月31日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies0728/

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