マルチクラウドの世界をシンプル化するDell APEXの「3つのアプローチ」とは

「グラウンドからクラウドへ」と「クラウドからグラウンドへ」という双方向戦略によって、オンプレミスとクラウドの融合を目指す「Dell APEX」。前回はクラウドのメリットをオンプレミスにもたらす「クラウドからグラウンドへ」を中心に解説したが、ほかにも注目すべき特長がある。それは「マルチクラウドの世界のシンプル化」だ。今回はそれがどのように実現されるのか具体的に見ていきたい。

ストレージ上でクラウド環境を動かし相互運用性を向上

デル・テクノロジーズ
(アジア太平洋&日本)
Dell APEX
クラウド&コンテナソリューション
シニアディレクター
兼 プリセールス責任者
グレン・ハイアット氏

クラウド活用によって、運用負荷が以前よりも増大してしまった。あるいは、クラウドベンダーごとに運用方法が異なるため、マルチクラウドの運用が煩雑になっている――。こうした悩みを抱える企業が増えている。この問題を解決することは、今後DXをさらに推進していく上で、喫緊の課題だ。

この課題に対し、「Dell APEXは有効な解決策になります」と語るのは、デル・テクノロジーズのグレン・ハイアット氏だ。「Dell APEXでは大きく3つのアプローチを採用し、マルチクラウド全体の運用を簡素化しようとしています」。

第1のアプローチは「マルチクラウドプラットフォーム」だ。その基本的な考え方は、汎用的なストレージアプライアンスの上でハイパーバイザーやKubernetesを動かすことで、クラウドの一部として利用可能にすること。「このアプライアンスは、当社のソフトウエア定義型ストレージ製品『PowerFlex』がベースになっています」。

アプライアンス上ではVMwareのような仮想環境に加えて、Red Hat OpenShift Container PlatformやAmazon EKS Anywhere、Microsoft Azure Kubernetes Engine、Google Anthosといったハイパースケーラーのコンテナエコシステム環境を動かすことが可能だ。そのためこのアプローチは「マルチクラウドアプライアンス」と呼ばれている(図1)。

クラウドで使われている運用環境をオンプレミスに延長し、利用しているクラウドの環境をアプライアンス上で動かすことにより、相互運用性を高めることが容易になる

「利用しているクラウド環境と同じものをマルチクラウドアプライアンス上で動かせば、オンプレミスとクラウドの相互運用性が飛躍的に高まり、データやアプリケーションの双方向移動が容易になります。たとえば、セキュアに実行すべきデータ処理はオンプレミス側で行い、BIツールやAIを活用した大規模なデータ分析はクラウドで行うといったことを、シームレスに実現できるのです」(ハイアット氏)

既にそのための「リファレンスアーキテクチャ」は明確化されており、2023年には具体的なソリューションがリリースされる予定だという。

オンプレミスのストレージ機能をクラウドでも実行

第2のアプローチは「Project Alpine」だ。これは、オンプレミス向けの各種システムインフラ機能を、クラウドでも利用可能にするというもの。最終的にはデル・テクノロジーズの全ストレージ製品を、Project Alpineに対応させる計画だという。

「その中で最初に提供されるのが、PowerFlexのブロック型ストレージの機能です。まずはAWSに対応し、Amazon EBSと組み合わせたAmazon EC2のインスタンス上で、その機能を動かすことになります。その後、ほかのハイパースケーラーに展開するとともに、ほかのストレージ機能の対応も進めていきます」とハイアット氏は話す。

AWS上でPowerFlexが動くようになれば、AWSの大きな特長であるマルチAZ(Availability Zone)によって、簡単に冗長化できるようになる。また複数リージョン間での非同期レプリケーションを活用すれば、地域をまたいだ形での冗長化も可能だ。これによって、システム障害や広域災害によるデータ消失のリスクを最小化しやすくなる。

さらに、AWS上のPowerFlexからAmazon S3へのバックアップも可能になる。既にデル・テクノロジーズでは、ハイパースケーラー上で稼働するData Domain Virtual Edition(DDVE)を提供しており、その長期保管先にAmazon S3と連携できるからだ。Data Domainといえば、高い重複排除率を誇るエンタープライズシステムにおけるデータバックアップ/アーカイブソリューションの、定番ともいえる製品である。

このようにAWS上でPowerFlexが動くことで数多くのメリットがもたらされるが、Project Alpineで最も注目すべきポイントはほかにもある。それは、企業内にある「インハウスデータセンター」と、クラウドに接続されるデータセンター、そして複数のクラウドを組み合わせたマルチレイヤーの環境の中で、データを自由に行き来させることが可能になるという点だ(図2)。

オンプレミス、データセンター、クラウドの間で、自由自在にデータを移動できるようになる

これによって、さらなるメリットを享受できる。その1つはデータ主権が確立しやすくなることだ。最近では各種規制によって、データを特定の地理的な範囲内に保存することが義務付けられることが増えているが、このようなコンプライアンス上の課題も解決しやすくなるわけだ。また、オンプレミスからクラウド、クラウドからオンプレミスへのレプリケーションによって、事業継続性を高めることも容易になる。そして、常に最適な場所にデータを置くことで、システム全体のTCOやパフォーマンスの最適化も可能になるという。

エッジデバイスの運用管理も自動化によって簡素化

第3のアプローチは、「マルチクラウドオーケストレーター」の提供だ。これは上記2つのアプローチとは若干視点が異なる。その主な目的は、エッジコンピューティングの管理を簡素化することだからだ。

「デル・テクノロジーズではエッジコンピューティング向けのサーバーやストレージ、ゲートウエイなども提供していますが、これらの活用で大きな課題となるのが、展開場所が分散し、きめ細かい管理が難しいという点です。最近ではIoT活用の拡大によって、これがオンプレミス環境の新たな課題となっています。マルチクラウド全体をシンプルにするには、その解決も避けて通れません」(ハイアット氏)

そのために提供が予定されているのが、Dell APEXコンソールに組み込まれたSaaS型のオーケストレーター機能と、各種エッジアプライアンスに組み込めるオーケストレーションエージェントだ(図3)。

これによって「ゼロタッチ」での展開・運用が可能になり、膨大な数のエッジデバイスの管理が簡素化される

「たとえばエッジゲートウエイでは、エッジに最適化されたセキュアなLinux OS上で、各種アプリケーションやサービスが仮想化またはコンテナ化された状態で稼働しています。これらと併存する形で、Linux OS上でオーケストレーションエージェントを動かします。このエージェントがDell APEXと統合されたオーケストレーターとやり取りし、エッジ運用の統合管理と自動化を実現。エッジデバイスの設置場所まで出向かずに『ゼロタッチ』でプロビジョニングを行えるようになります。また高度な自動化も実現できるため、ITに関する知識が乏しい管理者でも、簡単に運用可能です」(ハイアット氏)

第3のアプローチは「Project Frontier」と呼ばれているもの。これはエッジのライフサイクル全体をカバーする戦略だ。「仮想環境やKubernetes環境を自動的に展開するだけではなく、導入から利用時の運用、停止、廃棄まで、Dell APEXで対応できるようにしていきます」とハイアット氏は説明する。

自社保有のデータセンターから解放するサービスも

デル・テクノロジーズ株式会社
Dell APEXクラウド&コンテナソリューション
アドバイザリーシステムズエンジニア
平原 一雄氏

ここまで紹介した3つのアプローチによって、エッジからオンプレミスのデータセンター、クラウドに接続されたデータセンター、さらにはクラウドに至るまで、データの相互運用性と運用の簡素化・自動化が実現可能になる。その中にはまだ開発中のものも含まれるが、このような環境が現実的なものになるのは、そう遠い未来の話ではないという。

「ただし、オンプレミスとクラウドを融合すれば、すべての課題が解決するわけではありません。最近では自社で保有しているデータセンターそのものをなくしていきたいというニーズが高くなっており、これにどう対応するのかも重要な課題です」と指摘するのは、デル・テクノロジーズの平原 一雄氏だ。データセンターが老朽化した企業の中には、データセンターの更新を行なわずにクラウドファーストの検討を進めているケースが増えているという。とはいえ、すべてをクラウド化するという決断を下すことは現実的ではない。特にデータを特定クラウドに集中させることによるロックインのリスクがあるからだ。

そこで注目されているのが、社外のデータセンターに自社の機材を設置して運用する「コロケーション」だ。実際にコロケーション市場は急速な勢いで成長している。

「コロケーションが注目されている背景には、自社データセンターをなくしたいというニーズのほかに、もう1つの理由があります。それはEquinixに代表される、ハイパースケーラーの接続ポイントが彼らの拠点にあり、通信のレイテンシーを極限まで低下させることを可能にした、クラウド隣接型のコロケーションが登場したことです。これによって、自社が運用するインフラ環境でデータ主権を確立し、クラウド側からもそのデータにアクセスしてアプリケーション処理を行うといったことが、より現実的になったのです」(平原氏)

Dell APEXではこのようなニーズに対応するため、Equinixと共同で「Dell-Managed Colocation」というプロジェクトを推進。Equinixのクラウド隣接型施設にデル・テクノロジーズの専有エリアを確保し、そこに設置されたストレージ製品を、Dell APEXの利用形態で活用できるようにしている。

クラウド上のアプリから高いパフォーマンスで接続可能

「お客様はDell APEXコンソールからDell APEX Data Storage ServicesとDell-managed Colocationを発注するだけで、インフラが速やかに専有エリアに設置され、迅速にストレージリソースを使い始めることができます」と平原氏。クラウドとダイレクト接続するための契約は各クラウド事業者と結ぶ必要があるが、Equinix側の接続ポートは既に用意されているため、クラウドとの接続も短期間で行えるという。

もちろんハードウエア管理や障害・修理対応、パフォーマンス監視などは、すべてデル・テクノロジーズ側でシームレスに対応。コロケーションを含む契約、請求に関しても、窓口をデル・テクノロジーズに一本化できる。「Equinix内にお客様契約のコロケーションラックを保有し、そこでサーバーを動かしている場合には、Equinix Cross-Connectによって相互接続も可能です」(平原氏)(図4)。

Equinixのクラウド隣接型データセンター内にデル・テクノロジーズのストレージ製品を設置し、それをDell APEXモデルで提供する。ハイパースケーラーと低いレイテンシーで接続できるため、クラウド上のアプリケーションからも高いパフォーマンスでアクセスできる

ここで気になるのはクラウド上のアプリケーションから接続した際のパフォーマンスだが、実際にEquinixと共同でベンチマークテストを行った結果、AWSから安定的かつ高いパフォーマンスでアクセスできることが実証されている。

「レイテンシーが低く、ストレージ性能の予測性にも優れるため、Amazon EBSを使用したAWS内だけの構成より、ベンチマーク結果が優れるケースもありました。AWSに全面移行する場合、彼らのベストプラクティスに従う必要がありますが、オンプレミスのアプリケーションをリファクタリングせずにAmazon EC2へと移行したい場合、クラウド隣接型コロケーションは現実的な選択肢になるはずです」(平原氏)

Equinixと連携したコロケーションでのDell APEX提供は、米国で提供開始、日本でも提供を計画している。データセンター自社保有の負担をなくすとともに、Dell APEXでマルチクラウド環境をシンプル化するための第一歩として、検討する価値は十分にあるといえるだろう。

日経BP社の許可により、2023年1月27日~ 2023年2月23日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/23/delltechnologies0127_02/

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