ハードとソフトの両面の拡張で速度と拡張性が大幅に向上
PowerStoreは、デル・テクノロジーズが2020年に市場投入したストレージだ。その最大の特徴は、インテリジェント性の高さにある。またコンテナベースで各種機能を搭載できるようになっており、スケールアップやスケールアウトもインテリジェントに行えるなど、柔軟性も極めて高い。AnsibleやKubernetesなどの外部ソフトウエアから、きめ細かい制御を行うことも可能だ。さらに「アプリケーションが動く仮想マシンをそのまま載せられる」という、これまででは考えられなかった機能を備えていることも見逃せないポイントだ。
これに加え、2022年5月に行われた「Dell Technologies World(DTW)」では「PowerStoreOS 3.0」が発表され、これによって120以上に上る機能拡張が行われた。1世代のバージョンアップで行われた機能拡張の数では、最多となるという。
特に注目したいのは、ハード・ソフトの両面から強化が図られている点だ。これにより、パフォーマンスは大幅に向上した。デル・テクノロジーズで行われたベンチマークテストによれば、多様なワークロードが混在した状況下でもパフォーマンスが最大50%向上、書き込みに限れば最大70%、データコピーでは最大10倍の高速化を実現したという。
スケーラビリティも向上している。最大4つのアプライアンスをシェアードナッシング型(システムを構成するストレージ機器同士で何も共有しない方式を指す。ストレージを追加した際に、共有リソースがボトルネックにならない)でスケールアウトでき、1クラスターあたりの容量は最大18.8PBに達する。これは前世代に比べて66%の増大だ。またサポートされるボリューム数は最大で8倍になっている。
さらに進んだVMwareとの統合、NVMe/TCPサポートも拡大

デル・テクノロジーズ株式会社
ストレージプラットフォーム
ソリューション事業本部
システム本部 ディレクター
森山 輝彦氏
このように大きな進化を遂げたPowerStoreだが、ここでは拡張された機能の中から、特に注目すべきものを紹介したい。
最初に着目したいのが、VMwareとの統合がさらに進んだことだ。まずPowerStoreの管理ツールである「PowerStore Manager」から、VMware環境をダイレクトに可視化できるようになった。逆にVMware vSphereからPowerStoreを直接管理することも可能だ。管理者はいずれかの使い慣れたツールによって、VMware環境とPowerStoreの管理を一元的に行えるわけだ。「もちろん、これまで通りAnsibleなどを使って運用を自動化することも可能です」とデル・テクノロジーズの森山 輝彦氏は説明する。
VMwareに提供できるデータストアの種類も増えた。これまでもVMFSやvVolsはサポートされていたが、今回の拡張でNFSもフルサポートされた。またネイティブvVolsのレプリケーションなど、仮想マシン保護機能も拡充。仮想マシンをPowerStore上で直接実行する「AppsON」も忘れてはならない特徴のひとつだ。
「オンプレミスの仮想環境では、多くの企業がVMwareを利用しています。これらのVMware環境とインテリジェントストレージとの統合は、仮想環境の運用性と柔軟性をさらに高めるものです」(森山氏)
次に注目したいのが、NVMe/TCP(NVMe over TCP)サポートの強化だ。当初からサポート可能だったブロック用のストレージ通信プロトコルであるFC、iSCSI、NVMe/FCに加え、昨年末のリリースで、NVMe/TCPの利用は可能になっていた。今回は、さらに物理的な通信回線として100GbE(イーサネット)も利用可能になった上、100GbのNVMe/TCPポートを、最大4ポート装備できるようになった。これに加え、vVolsをNVMe経由で利用できるようになった点も、大きなポイントだ。

「これによってホストからスイッチ、ストレージに至るまで、エンド・ツー・エンドでNVMe/TCPで接続できるようになりました。実際に100Gb NVMe/TCPでホストと接続した場合、32Gb FCに比べて73%も高速化できます。しかし得られるメリットは、単にスピードが向上したというだけにとどまりません。それ以上に重要なのが、コストパフォーマンスの向上です」と森山氏は語る。
ポートあたりのコストは32Gb FCに比べて半分以下になり、通信速度(Gbps)あたりのコストは1/8近くまで低減したという。高速通信を低コストで実現できることこそが、NVMe/TCPの真価だといえるだろう。
DRなどに使えるメトロシンク機能をネイティブサポート
ディザスターリカバリー(DR)などに有効な「データレプリケーション」と「メトロシンク(Metro Sync)」という2つの機能が強化された点も、重要な進化だ。
前者の、データレプリケーションは同じサイト内において異なるストレージ間でデータを複製する機能。これまでもRP4VM(RecoverPoint for VMs)を利用した同期型/非同期型でのレプリケーションを、ブロック型データとvVolsに対して行うことが可能だった。またPowerStoreのネイティブ機能としても、ブロック型の非同期レプリケーションが提供されていた。今回の拡張では、さらにネイティブ機能として、ファイル型とvVolsの非同期レプリケーションが追加された。ファイルサーバーや仮想マシンのレプリケーションが、2台のPowerStoreだけで完結できるようになったわけだ。
一方のメトロシンクは、データセンター内、あるいは比較的近距離の別のデータセンターにあるストレージ間でデータ同期を行う機能。これまでも「メトロノード」というアプライアンスを追加することで実現可能だったが、新しいPowerStoreでは、ネイティブ機能としてサポートされるようになった。メトロノードを設置することなく、よりシンプルな形で筐体間でのボリュームミラーリングが可能になったのだ。
このネイティブなメトロ機能は、最大100km離れた場所とのデータ同期を行うことができ、VMware環境でのフェイルオーバーの自動化が可能となる。これによってRPO(許容できるデータ損失)とRTO(許容できるダウンタイム)を、ゼロにしたDRが実現できる。またDRだけではなく、サイト間で負荷を分散すること(ロードバランシング)や、サイト間でのマイグレーションに利用することも可能だという。
「同期相手が異なるモデルでも問題ありません。1PBの容量でネイティブメトロシンクを利用した場合には、わずか2Uのスペースで設置可能です。設定作業もシンプルです。2台のPowerStoreが接続されていればわずか5クリックで、HA設定(サイト間のデータ同期による高可用設定)が完了します」(森山氏)

NISTに準拠したセキュリティ機能も幅広く実装
もう1つ見逃せないのが、セキュリティ機能も大幅に拡張された点だ。特に注目したいのが「ハードウエアトラスト」の実装だ。これは暗号技術をハードウエアやファームウエアに取り込むことで、「工場出荷時から改ざんが行われていないことを保証する」というものだ。ファームウエアのパッチがリリースされる際にも、暗号化されたシグネチャ付きで提供され、パッチの正当性が適用前に確認できる。「ここまでの対応を行っているストレージベンダーは、ほかに類をみません」(森山氏)。
これ以外にも、「ランサムウエアに対する防御機能」、アレイ盗難時でもデータ流出を防止する「External Key Managerのサポート」、ファイル削除や変更を防止する「FLR(File-Level Retention)の実装」、セキュアな「データインポート機能」の実装などが行われている。
「ストレージに適用できるセキュリティ機能は、すべて実装しているといっても過言ではありません。またこれらのセキュリティ機能は基本的に、すべてNIST Design Frameworkに基づく形で実装されています」(森山氏)

ここで取り上げたのは、PowerStoreの機能拡張のごく一部に過ぎない。ほかにも数多くの機能が実装されている。それではこうした新機能を使いたい既存ユーザーは、どうすればいいのか。「新たに新モデルを購入していただく方法のほかに、コントローラーをアップグレードするという方法もあります。『Anytime Upgrade』という考え方と仕組みを採用しているため、アップグレードはいつでも行うことができます」と森山氏は話す。
Anytime Upgradeを活用すれば、ストレージそのものをリプレースする必要はない。つまり、機能拡張のためにデータ移行を行うといった作業から解放されるわけだ。また冒頭で述べたように、スケールアップやスケールアウトもPowerStoreならではのインテリジェント機能で行われるため、データ量の増大にも対応しやすい。データ管理の負荷も大幅に削減可能になるだろう。
もともとPowerStoreは、常に最先端の機能を提供できる柔軟性の高いアーキテクチャになっている。今回の大規模な機能拡張にも、その真骨頂が発揮されており、DXを加速する上でも、大きな貢献を果たすのではないだろうか。
日経BP社の許可により、日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies0610/