AI時代のPCの新たな救世主!CPU、GPUに加わったAIスペシャリスト「NPU」とは?

生成AIが話題になる中、皆さんが日頃使っているPC上でもAI処理が可能になる時代が来ています。その鍵を握るのが、近年新たに登場したプロセッサー「NPU」です。NPUは、AIの能力を最大限引き出しながらPCの性能をさらに高める新しい技術です。 さらに、NPUを搭載した「AI PC」や、Microsoft 365 Copilotを快適に使える「Copilot+ PC」など、AIの進化を体感できる次世代PCも登場しています。この記事では、AI時代におけるPCの進化とその可能性についてわかりやすく解説します。

AI時代到来、従来のPCが直面した限界とは…?

PCの登場以来、その「頭脳」とも言える存在として計算処理を担ってきたハードウェア部品が「CPU」です。このCPUの性能がPCの総合的な性能を左右すると言っても過言ではありません。

もう1つ、PCの計算処理を行っている別のハードウェアとして「GPU」があります。これは主に画像処理に関わる計算を行うためのもので、その性能が高いほど映像やゲームの画面が美麗で高速に表示できます。CPUとGPUの性能は年々向上していて、複雑な処理が必要となる様々なアプリを快適に操作することが可能です。

ところが、近年ではCPUやGPUだけでは新しいPCの使い方に対応できなくなってきました。その背景にあるのが、音声認識、画像認識、自然言語処理といったAI機能を活用したアプリや昨今話題の生成AIサービスの増加です。

AI処理をPC上で行うニーズが増えていますが、そのためにはPCにさらに高度な計算能力が必要で、CPUはAIの処理に必要な「大量のデータを同時に処理すること」は得意ではありません。GPUはCPUに比べてこうした並列計算を得意としますが、消費電力が大きいため、PC上で処理を行うには限界があります。

今、生成AIサービスのChatGPTやGeminiなどがとても話題になっていますが、こうしたアプリはインターネット上で命令を入力して送信し、実際のAI処理は強力な計算能力を持ったサーバー側で行われているため、PCに処理能力は必要ありません。

しかし、こうしたAI機能を利用するために都度データの送受信などでサーバーと通信していてはパフォーマンスの低下や、セキュリティに不安があります。そこで、AI処理を「PCデバイス上で行おう」という動きが活発化しています。

「NPU搭載」がAI時代のPCの能力を引き上げる!

そこで、近年新たに加わったPCの第3の頭脳が「NPU(Neural Processing Unit)」です。NPUは、AI処理に特化して設計されたプロセッサーです。AIの処理に必要な大量の行列計算や並列処理を高効率かつ省エネで実行できるよう設計されています。

PC向けのCPUの多くはGPUを内蔵した設計になっていますが、最新のCPUはさらにNPUを内蔵した設計の製品が登場しています。

<NPU内蔵のPC向けプロセッサーの例>

  • Intel…「Intel Core Ultra プロセッサー」シリーズ
  • AMD…「Ryzen AI 300」シリーズ、「Ryzen 200」シリーズ
  • Qualcomm…「Snapdragon X」シリーズ

NPUが搭載されたPCなら、AI機能を備えたアプリを使う際に、インターネットに接続してクラウド上でAI処理を行う必要がなくなるため、遅延を最小限に抑えてAIの機能を利用できるようになります。
※注:NPUはすべてのアプリに対応するわけではありません

また、NPUは必要最小限の電力で動作し、PCに搭載された場合でも無駄な電力を必要とせず、バッテリー駆動でAIの機能を十分引き出すことが可能です。さらにCPUとGPUもAI処理をNPUに任せることで、他の処理に集中することができるようになり、AIの機能を利用するアプリの動作がより快適になるというわけです。またそれぞれに処理が分散されることで、総合的にバッテリーの持ちも良くなります。

NPUは様々なAI活用アプリで活躍

実際にNPU搭載のメリットをいかした、AI機能をもつPCアプリや機能の例を2点紹介します。

●カメラ映像を調整する「Windows Studio Effects」

Windows Studio Effectsは、例えばカメラ映像の背景を隠す「背景ぼかし」機能や、カメラが自動的にユーザーを追いかける「オートフレーミング」機能、カメラに写っているユーザーの目線を調整する「アイコンタクト」機能、マイク音声をよくする「ノイズ抑制」機能など、いずれもNPUによるリアルタイムAI処理によって実現される機能を搭載しています。

このWindows Studio Effectsは、Windows 11のPCの中でもNPUを搭載したモデルでのみ利用できます。今後NPUを搭載するPCが増えていくことで、このようなアプリはほかにもさらに増えていくことでしょう。

●Officeアプリ上で生成AI機能を使える「Microsoft 365 Copilot」*1

生成AI機能をOfficeアプリ上で使えるMicrosoft 365 CopilotもNPUのメリットを引き出します。これは必ずしもNPUが必須というわけではありませんが、NPUを搭載したPCではAIのローカル処理に対応しているため、より快適にAI機能を利用することができます*2

*1 利用には有償ライセンスが必要です。
*2 提供予定の機能で、利用には有償ライセンスが必要です。

Microsoft 365 Copilotは、Officeアプリに統合されたAI機能を持ち、Wordでのテキストの生成やExcelでのデータ分析、Outlookでのメール文案作成など、業務のあらゆる面で生産性向上をサポートします。

今回は、NPUを活用した例としてWindows Studio EffectsとMicrosoft 365 Copilotの2点を紹介しましたが、現在、他のソフトウェアベンダーもNPUの能力を活用すべく、自社アプリの開発やアップデートを進めています。例えば、動画編集ソフトや音声処理アプリ、さらにはクリエイティブ制作ツールなど、様々な分野でNPUを利用した新機能の実装が期待されています。

続々登場「Copilot+ PC」がPCの新たな地平を開く

IntelとMicrosoftは、NPUが標準搭載されたWindows PCプラットフォームを「AI PC」と位置づけ、その普及を推進しています。エッジAIを実現し、Windows Studio Effectsのような、NPUが必要なアプリをWindows上で積極的に利用することでより良いPC体験の実現を目指しています。

そしてAI PCの1つの具体的なジャンルとして、2024年5月に「Copilot+ PC」が発表されました。Copilot+ PCとは、Windows に標準搭載されているAIアシスタントであるCopilotの処理が快適に実行できるNPU搭載のPCを指し、最低でも次の要件を満たしているものがそのように呼ばれます。

  • Windows 11の最小システム要件を満たしていること
  • NPU:40TOPS(1秒間あたり40兆回の処理が可能)以上の性能
  • メモリー:16GB以上のDDR5/LPDDR5メモリー
  • ストレージ:256GB以上のSSD/UFS
  • キーボードにCopilotキーを備えている

デル・テクノロジーズはCopilot+ PCとして、コンシューマーモデルの「Inspiron 14 Plus」「New Inspiron 14」「XPS 13」や、法人向けモデルの「Latitude 7455」「Latitude 5455」「Dell Pro Premium」「Dell Pro Plus」「Dell Pro」などをラインアップしています。いずれも外観は同シリーズ製品と大きく変わりませんが、そのAI性能は折り紙付きです。

Copilot+ PCは、Windowsに標準搭載されたAIアシスタント「Copilot」を快適に利用するためのPCです。例えば、リアルタイム翻訳を行う「Live Captions」や、Windows標準アプリ「ペイント」に搭載され、画像生成を補助する「Cocreator」といった高度な機能があります。この高度な機能をスムーズに動作させるには、40TOPS以上の処理性能を持つNPUが求められます。そのNPUにより、AI機能をフル活用するための環境が整備されているのです。

このように、Copilot+ PCの登場によってAIがより身近な存在になり、今後もAI技術やPCのさらなる進化によって、ユーザーの業務はより快適かつ効率的なっていくでしょう。