「AI PC」でAI機能がさらに身近に!Copilot+ PCの「+」 の意味!ユーザーにとっての”プラス”とは?

前回の記事でNPUの役割、そして最先端のAI PCであるCopilot+ PCを説明いたしました。皆さんの中には、「今使っているPCで例えばChatGPTを使うのと何が違うのか?」「どんなメリットがあるのか?」と気になる方もいるかもしれません。 Copilot+ PCは、Microsoftが提唱する新たなPCカテゴリであり、AI機能がさらに進化したPCです。これにより、従来のPCと比べてどのような進化があるのか、そのポイントを見ていきましょう。また、NPUがなぜAIの処理に適しているのかについて解説します。この記事を読めば、Copilot+ PCがどのようにあなたのPC体験を変えるのか分かります。

AIの進化とプロセッサーの進化が組み合わさって実現

前回の記事では、NPUがなぜAI PCに必要なのかを解説しました。特に、Copilot+ PCのNPUは、40TOPS以上といった処理能力を持ち、Recall、Live Captionsなどアプリでのローカル処理を実現させる新しいPCのプロセッシングユニットです。

とはいえ、PC端末内のNPUの処理能力は限定的です。AI ワークステーションで使用するディスクリートGPU(CPUとは独立して単体で搭載されるもの)やクラウドのGPUの処理能力と比べると、処理できる作業量と速度は大きく劣ります。しかし、それには理由があります。クラウドでの大規模なAI処理とは異なり、実際の多くのユーザーが求めているのは、ローカルデバイスで日常のタスクに活用できるAI機能だからです。

多くの人は、労働時間の大半をメールや会議、データ・資料の作成に使っていることでしょう。例えば、Microsoft 365アプリ全体で見ると、一般的な会社員は時間の57%をコミュニケーション(会議、メール、チャット)に使い、43%を作成(ドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーション)に費やしているそうです。
(参考:https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/will-ai-fix-work

また、ローカルデバイスにAIが求められるポイントの1つとして、例えばChatGPTなどの「大規模言語モデル(LLM)」は、オンライン上のサービスであり、インターネット通信をしないと使えないという点があります。こうした制約があるのは、一般的にAIのプログラムが非常に大規模な計算能力を必要とするためです。

そこで、Copilot+ PCではPC側に強力な計算能力を持てるようにしたことで、クラウド側のサーバーで行っていたAI処理をインターネット通信をせずに、PCの中で完結できます。そのため、PCとより一体化し、素早いレスポンスを得られるほか、データがインターネット側へ送信されないので情報が漏えいすることもありません。

小規模なのに、実はとても役に立つ?NPU + SLM = ローカルAI処理実現

では、Copilot+ PCはどのようにしてAI処理をできるのでしょうか。

その秘密は、SLM(Small Language Model:小規模言語モデル)、そしてNPUの処理能力です。後者は、前回の記事で紹介したNPUと呼ばれるAI処理専用のプロセッサーです。

SLMは、LLMと比較すると非常に小規模なデータセットやリソースで動作する自然言語処理モデルです。そしてCopilot+ PC専用にMicrosoftが開発したSLMが、「Phi Silica(ファイシリカ)」です。

SLMは小規模とはいえ、その内部にはマトリックス(沢山の行列)のような構造を持っているため、PCでAIを処理する場合には、スピードに加えて、消費電力の最適化も重要になります。そこで、活躍するのがNPUです。NPUのアーキテクチャーは神経細胞間の情報伝達の脳内構造を模倣して作られており、高いエネルギー効率と並列処理能力が備わっています。

一方、CPUは汎用的な計算処理を担い、直列処理に優れています。また、GPUは並列処理能力に優れ、特に画像処理やディープラーニングの学習に適しています。そのため、PC上でAIを効率的に活用するには、消費電力を抑えつつ、高速に計算できるNPUの役割が重要になるのです。

ローカルAI処理をできるのがなぜ良いのか?

ここからはローカルAI処理の利点と、先述したCopilot+ PCのSLM「Phi Silica」を活用したWindowsアプリについて解説していきます。

まず、ローカルAI処理の利点ですが、インターネット通信に依存しないため、オフライン環境でも高性能なAI機能を利用できます。これにより、データの送受信遅延が解消され、即時に応答が得られるため、ユーザー体験が向上するのです。また、個人データのプライバシーが保護され、セキュリティーリスクが低減されます。Copilot+ PCは、これらの利点を活かして、日常のタスクをより効率的にこなせるAI体験を提供します。

さらに、Copilot+ PCに搭載された「Phi Silica」は、Windowsアプリの開発者にとっても大きなメリットをもたらします。Phi Silicaを利用することで、開発者は多様なAI機能をアプリに組み込むことが可能となり、すでにCopilot+ PCにはAIを活用したアプリや機能が多数搭載されています。その具体例をいくつか紹介していきましょう。

機能名 説明 どのようにPhi Silicaを活用しているか
Cocreator Windows標準アプリ「ペイント」に搭載される画像生成AI機能 自然言語の理解と画像生成アルゴリズムにより、ユーザーからのインプット(描いた絵とその説明)の処理を支援。*1
Windows Studio Effects 内蔵カメラの映像に各種効果を追加、音声を最適化する機能 音声処理やビデオ処理のアルゴリズムが含まれているため、背景ノイズの除去やビデオフレームの調節(照明や背景ぼかしなど)が可能です。
Live Captions リアルタイム翻訳機能 自然言語処理機能の他、機械学習モデルを利用し、膨大なデータセットでトレーニングされた機械学習モデルを使用して、さまざまな音声および言語パターンを認識し処理します。
Windows Search ファイルやアプリケーション、ウェブ情報を素早く見つけるための便利な検索機能 自然言語処理によるインプットはもちろんですが、クエリ間でコンテキストを維持できます。また、ユーザーの行動や好みを学習し去のインタラクションに基づいてよりパーソナライズされた関連性の高い提案ができます。
Recall *2 PC画面をスナップショット画像として取得し、その画像をOCRやAIで解析することで、過去の情報を検索できる機能 自然言語処理を活用し、スクリーンショットの内容について要約を生成して、迅速に理解できるようにします。さらに、Phi Silicaがコンテキストを正確に把握し、検索結果の精度を向上させます。

*1: NPUがローカルで多くのタスクを処理してリアルタイムでアートワークを生成する一方で、インターネット接続は依然として必要です。これは、最新のAI技術を使用するための高度なAIモデルやリソースへのアクセス、生成されたコンテンツの安全性を確保するためのAzureのオンラインサービスの利用、ユーザー認証やデータ同期のためです。
*2: RecallはCopilot+ PCに未搭載の機能です(2025年1月末時点)。そのため、現在はプレビュー版となっています。

これらのAI機能は、Copilot+ PCに搭載されたNPUとPhi Silicaが連携することで実現しました。

将来の展望 ハイブリッドAI モデル、Microsoft 365 Copilot

Copilot+ PCでは、クラウドを活用したLLMも、引き続き利用できます。そのため、LLMならではの大規模なデータを活かした情報の正確性と、SLMならではの軽量な操作性を組み合わせることで、ローカルとクラウドを組み合わせたAIの使い方が今後一般的となるでしょう。

具体的には、文書作成にAIを活用する際、シンプルな文章の要約や生成にSLM(Phi Silica)を使い、複雑な文章の構成案や資料の分析などはLLMを使います。後述するように、LLMは「Microsoft 365 Copilot」を通じて利用できます。

また、PCの操作やローカルにある文書を探すような単純な検索クエリにはSLMにてリアルタイムに対応し、複数の要素を組み合わせて条件に基づく回答を求めるような高度な検索クエリに対してはLLMで対応して検索結果を返します。

このように、Copilot+ PCは各場面でSLMとLLMを切り替える「ハイブリッドAI」環境をユーザーに提供することで、さらに便利なAI PC体験を実現するのです。

「Microsoft 365 Copilot」は、Microsoft OfficeアプリであるWordやExcel、PowerPointなどでの文書作成やデータ分析、プレゼンテーション作成などをサポートしています。

Microsoft 365はクラウド上で各Officeアプリを利用できるので、クラウドでAI処理を行うMicrosoft 365 Copilotとはとても相性がよく、使い勝手の良さが高く評価されています。そのMicrosoft 365 Copilotですが、Copilot+ PCに搭載されるNPUに対応することが2024年11月に発表されました。

そのため、今後、一部のAI処理においてはクラウドにアクセスすることなく利用できるようになります。それによってAIによる文書生成や翻訳がより高速になるほか、通信手段のない環境でも活用できるなどのメリットを得られるでしょう。

今後はさらにAI技術が普及すると予想され、またクラウドに接続せずに利用できるAI機能の幅も広がっていくでしょう。そのような変化にもいち早く対応し、最新の性能と最良のAI体験を得られるCopilot+ PCを、ぜひご自身で体験してみてはいかがでしょうか。