押し寄せるSIモデル変革の潮流 今SIerに求められる「一手」とは?

日本の企業や組織のIT化推進において、大きな力を発揮し続けてきたSIer。しかしそのビジネスモデルは、今大きな転換期を迎えている。従来のような売り切り型の受託開発や、継続的に人月を稼げる運用委託のニーズが、以前に比べて減少しつつあるのだ。そこで本稿では、現在のSIerを取り巻く環境とそこで生じている課題を俯瞰したうえで、これからSIerが将来に向けて打つべき「一手」について考えてみたい。

今求められるSIモデルの変革と直面する2つの課題

デル・テクノロジーズ株式会社
グローバルアライアンス
プリセールス アドバイザリ
プリセールスソリューションアーキテクト
今井 健司氏

コロナ禍で、IT環境へのニーズが大きく変わった。テレワークに対応する必要が生じたことによってITインフラや就業規則などに対して、急速な変化が求められるようになったのだ。「この潮流の中で多くの日本企業・組織が、ITシステムだけではなく企業文化も変革する必要がある、という認識を持つようになりました。その結果、SIerに求められるものも大きく変化していったのです」と指摘するのは、デル・テクノロジーズの今井 健司氏だ。

現在、SIerに求められているのは、顧客と共にDXを共創するパートナーとしての役割だ。顧客企業・組織が提示する要件に合わせて開発・運用を行うだけでは、ビジネスを成長させることは難しい。今後は顧客のビジネス領域にまで踏み込み、顧客と二人三脚でDXを成し遂げていかなければならないわけだ。

ただし、その実現は容易なことではなく、大きく2つの課題に直面することになる(図1)。

単なる受託開発/運用受託から脱却し、顧客と共にDXを共創するパートナーになることが必要だ

1つ目の課題は「DX人材の創生」である。SIerは豊富なIT人材を持つ一方で、顧客のビジネス領域にまで踏み込める知識や経験を持つ「DX人材」は、必ずしも十分とはいえない状況だ。しかしDX人材を増やしていかなければ、顧客と伴走してDXを成し遂げることはできない。つまり人的リソースの再配置を推進しなければならないのだ。

「現在でもSIerのビジネスの7割以上は、システムインフラの検討・設計、構築、運用で占められている状況です。これらの業務は多くの人的リソースを必要とするため、人月モデルのビジネスにとっては当然ながら重要なものだといえます。しかし次のビジネスモデルのためにDX人材を増やしていくには、これらに費やすリソースをできる限り削減し、より多くの従業員がDX領域のスキルを磨いていかなければなりません。そのためにはシステムインフラに関する業務を徹底的に効率化し、従業員がDXに集中できる環境を整備することが求められます」(今井氏)

もう1つの課題は「ビジネス成果の迅速な提供」だ。多くの顧客はDXによって新規ビジネスを立ち上げ、新たな収益の柱を生み出したいと考えている。しかし新規ビジネスは技術的な調査・開発・検証に時間がかかり、それなりの投資が求められる。ここで迅速に成果を挙げていくには、システムインフラにできるだけ手間をかけず、ビジネスモデルやサービスの開発に集中できる環境を整備しなければならない。また先行きの見通しが難しい初期段階では、スモールスタートしてビジネスが軌道に乗ってきた段階で迅速に拡張できることや、状況によっては即座に縮小できる柔軟性も必要だ。

「そのためには業界ごとに実績のあるソフトウエアや検証済みの環境を利用することが望ましいといえます。またシステムインフラに関しては、できるだけサービス型を活用することも、柔軟性を高める上で重要な条件になってくるはずです」と今井氏は語る。

課題を解決に導くAPEX、新たなサービスモデルへの活用も開始

デル・テクノロジーズ株式会社
グローバルアライアンス
プリセールス
シニアプリセールスソリューションアーキテクト
川瀬 克之氏

これらの課題の解決において重要な意味を持つのが、サービス型でシステムインフラを提供するAPEXである。その理由について、デル・テクノロジーズの川瀬 克之氏は、次のように説明する。

「まず『DX人材の創生』に関しては、APEXを活用することで顧客に対するハードウエアの調達方法がシンプルになり、運用管理やバージョンアップ、ハードウエア更改といった業務もデル・テクノロジーズに任せることが可能になります。そのためDXの付加価値サービスに集中することが容易になるのです」

また「ビジネス成果の迅速な提供」においても、従量課金/サブスクリプション型でハードウエアを活用でき、必要に応じて柔軟に拡張できるため、スモールスタートして迅速に拡張する、といったことが容易になる。その結果、DXによる新規ビジネス展開を加速できるのだ。

「こうした点が注目され。既にAPEXの提供が先行していた欧米では、APEXを活用した新たなサービスモデルも登場しています」と川瀬氏は語る。

「例えばソリューションパートナーの中には、IoTに必要なハードウエアや基本ソフトウエアをAPEXで調達し、その上に決められた構成で検証済のソフトウエアやサービスを載せて提供しているケースがあります。これによってシステムインフラの構築・運用をシンプル化し、顧客のDXに付加価値をもたらすサービスに自社リソースを集中しているのです。またサブスクリプション型で柔軟にシステムリソースを変更できるため、需要に合わせたコストでシステムを実現でき、投資リスクを抑制することも容易になっています。さらに、確実な納期でのデリバリーが可能であることや、リソースを追加する場合の調達が迅速なことも、APEXのメリットだと評価されています」(図2)

システムインフラの構築・運用をシンプル化し、顧客のDXに付加価値をもたらすサービスにリソースを集中できるようになるなど、様々なメリットを享受できる

自社でデータセンターやコロケーションセンターを運用し、そこで稼働するシステムをSaaS型で提供するクラウドサービスプロバイダー(CSP)にとっても、APEXの利用価値は高いという。

「これまでのCSPのビジネスモデルは、まず大規模な投資を行ってシステムインフラやアプリケーション環境を整備し、その投資をサービス利用料で回収する、というものでした。しかしAPEXを活用することで、このモデルは大きく変化します。CSPが初期投資を行うことなく、デル・テクノロジーズにサービス利用料を支払うことで、システムインフラを整備できるからです。またAPEXならハードウエア管理や更改も自社で行う必要はありません。自社で抱え込んでいたコストやリスクを削減しながら、ビジネスを拡大できるのです」(川瀬氏)

SIer自身のDXにも貢献するAPEXコンソール

APEXの提供は欧米が先行する形となったが、日本でも2022年7月に「APEX Data Storage Services(ADSS)」の提供が開始された。これによって日本のSIerも、ここまで述べてきた各種メリットを享受できるようになっている。

それでは具体的に、どのような形で顧客向けのハードウエアの調達を支援できるのか。少しSIer向けのAPEXコンソールの画面例を見ていきたい(図3)。

提供対象となる顧客を選択した上で提供するリソースのスペックを指定することで、必要なシステムインフラを調達できる。その後のモニタリングや各種管理もここで完結させることが可能だ

APEXコンソールにログインし、「カタログ」を選択するとAPEXサービスの一覧が表示される。パートナーはエンドユーザーとなる対象顧客を指定の上、提供するサービスタイプ、リソースを選択することでデル・テクノロジーズに発注が行える。

「これまで手作業で行っていた発注・契約作業はすべてAPEXコンソールで完結できます。このAPEXコンソールには顧客側からアクセスすることも可能ですが、どの情報を見せるのかといったアクセス制御がされています。例えばデル・テクノロジーズからSIerへの請求額などもAPEXコンソールで参照できるようになっていますが、この情報は顧客からは見えない設定になっています。また、ユーザごとのロールに応じてアクセス権限を細かく設定することも可能です」(今井氏)

APEXコンソールが提供するのは、このようなオーダーやプロビジョニングの機能だけではない。導入後の稼働状況のモニタリングや、リソース最適化の検討、リソースの追加、といった機能も実装されている。もちろん、どの顧客にどのサービスを提供しているのかも可視化されるので、管理性を高めることも可能だ。

「こうしたAPEXコンソールの機能は、デル・テクノロジーズの社内ユーザであるデルデジタルが実際に使いながら要望を出し、その内容を反映したものになっています。また導入が先行した欧米のパートナーにもヒアリングを行い、その内容も取り込んでいます。日本ではまだ提供を開始したばかりですが、今後は日本のSIer様・お客様からのご意見も、APEXコンソールの改善に役立てていきたいと考えています」(川瀬氏)

APEXは顧客のDXのみならず、SIerのDXにも大きな貢献を果たすものだといえる。システムインフラの調達・管理の負担がこれによって軽減できれば、DX戦略に基づいたリソース配置が可能になるだろう。そして“As a Service”型でシステムインフラを調達できれば、投資リスクも大幅に削減でき、顧客との“Win-Win”の関係も構築しやすくなりそうだ。

日本ではまだAPEXは提供開始されたばかりだが、今後数多くのSIerがこれを活用し、ビジネスモデルの変革に役立てていくのではないだろうか。

日経BP社の許可により、2022年9月26日~ 2022年10月23日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies0914_03/

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