筆者:デル・テクノロジーズ グローバルCTO & CAIO ジョン ローズ
コンピューティングの未来はハイブリッド
コンピューティングの世界は驚異的なペースで進歩しており、世界中の企業が追いつくために努力しています。量子コンピューティング(QC)はテクノロジーに革命を起こす軌道に乗っていますが、まだ従来のコンピューティングに取って代わる気配はありません。今後は、量子プロセッサーが従来のコンピューターを補完し、最も複雑な課題に取り組む「ハイブリッド量子古典コンピューティング(HQCC: Hybrid Quantum-Classical Computing)」アプローチが主流になると予想されます。
IDCによると、世界の量子コンピューティング市場は2028年までに89億ドル規模に達すると予測されており、量子強化ソリューションへの需要が高まっていることが浮き彫りになっています。しかし、これは企業にとってどのような意味を持つのでしょうか。また、この新たな相乗効果を活用するにはどうすればよいのでしょうか。
量子コンピューティング:実現の可能性と課題
量子コンピューティングは、もはや単なる科学理論ではありません。最も要求の厳しい一部の業界ですでにテストされ、適用されています。複数の可能性を同時に評価できる比類のない能力により、医薬品開発の加速から、より迅速な金融リスク モデリングの実現まで、特定の分野にとって理想的な選択肢となっています。その強みは、多くの可能性を一度に検討できることであり、多くの変数や結果が伴う問題には理想的です。
しかし、現在の量子マシンはまだ開発の初期段階にあり、量子ビット数が限定され、忠実度が比較的低いという特徴があります。実用的なアプリケーションを実現するには、システムを大幅に改善する必要があります。さらに、命令を実装するための制御メカニズムは、量子現象の複雑な相互作用によりエラーが発生しやすく、一貫性と精度の維持が困難になります。また、量子アルゴリズムは複雑で、広範なエラー訂正ツールが必要なため、量子ビット数を増やして全体的な計算能力を向上させることは容易ではありません。
さらに、多くの分野で重要な応用例となっている最適化問題や機械学習タスクを解決する量子コンピューターの能力は限られているため、両方のパラダイムの長所を活用できるHQCCアプローチが喫緊に必要となっています。HQCCは、量子プロセッサの能力と従来のシステムの安定性および信頼性を組み合わせることで、両方の長所を兼ね備えています。
量子コンピューティングへの備え:企業が今日からできること
HQCCは、現在のハイパフォーマンス コンピューティング(HPC)運用に代わるものではなく、強化するものであることを理解することが重要です。HQCCにはその可能性はあるものの、ソフトウェアの相互運用性、人材不足、進化するハードウェアの進歩など、対処すべき重大な課題があります。これらの課題を意識することで、ハイブリッド ソリューションを検討し始めた企業は、量子機能が進歩するにつれて、より有利な立場に立つことができるでしょう。
ハイブリッド ソリューションの導入を始めるための簡単な3つのアプローチは、次のとおりです。
1. 発見:学習や実験から始める
量子コンピューティングは新興分野であるため、ビジネスの準備段階として、基礎的な調査を行うことが重要です。実験の準備が整ったら、エミュレーションを使用して量子コンピューティング向けのコードを従来のインフラストラクチャーで開発、移植、最適化することを検討してください。これにより、多額の初期費用を抑えることができます。
2. 特定: 量子に適した問題を特定する
すべての課題が量子に適しているわけではありません。正解が1つしかないような計算には不向きであり、たとえば、税金の計算や給与計算には適していません。一方で、最適化問題の解明には非常に有効です。重要なのは、変数が多くモデル化が難しい状況を見極めることです。また、業務の改善が収益に大きな影響を与えるような、ビジネスに内在するユースケースを見出すことも必要です。
3. 展開:本番環境への円滑な展開と真のビジネスメリットを実現する
HQCCは、量子コンピューティング ソリューションを本番環境に導入するための柔軟なアプローチを提供しています。Hybrid Quantum-Classical Systems(HQCS)は、従来の処理と量子コンピューティングの力を組み合わせることにより、開発者が高価な量子ハードウェアに展開する前に、使い慣れた従来の環境で量子アルゴリズムを作成してテストできるようにします。これにより、新しいテクノロジーを採用するリスクを最小限に抑えながら、本番環境への導入を円滑に進め、量子コンピューティング時代への参入を加速することが可能になります。
HQCCとAIの交差点
AIと量子コンピューティングは、ますます融合しつつあります。AIモデルがより複雑になり、従来のシステムが性能やエネルギーの限界に達し始めるにつれて、AIと量子の両方の機能を組み合わせたHQCCのようなハイブリッド テクノロジーの可能性は計り知れません。
AIが量子コンピューティングを強化する方法は、以下のとおりです。
• ワークロードの最適化:AIは従来のプロセッサと量子プロセッサの間でタスクをインテリジェントに割り当てることができます。
• アルゴリズム効率の向上:AIは量子アルゴリズムを改良し、量子ハードウェア上でより効率的に実行できるようにします。
• 開発の加速:AIは専用の量子ハードウェアに依存せず、量子コンピューティングの進歩を可能にします。
一方、HQCCがAIを進歩させる方法は、以下のとおりです。
• 比類のない計算能力の提供:量子コンピューターは、従来のシステムでは難しい複雑な計算を処理できるため、材料科学や創薬などの分野でAIモデルを拡張できます。
• エネルギー効率の向上:HQCCは従来の処理と量子処理の両方を活用することで、AIタスクのエネルギー効率を向上させることができます。
この相互関係は、AIと量子コンピューティングの相乗効果を生み出し、各分野のパフォーマンスを向上させ、成熟を続ける産業全体に新たな可能性を提供します。
今後の展望:未来へのスマートな一歩
ハイブリッド コンピューティングの時代は、単なるテクノロジーの進化ではなく、変革の時代です。解決に何年もかかっていた問題が、今では数日あるいは数時間で解決される世界を想像してみてください。HQCCのシームレスな統合により、このビジョンは急速に現実のものになりつつあります。将来を見据えた企業にとって、ハイブリッド ソリューションの導入は、長期的な成長、効率性、イノベーションを実現するための道筋となります。
※当資料は、Make a Quantum Leap in Computational Capabilities – Lifestyle & Tech (Lifestyle & Tech South Africa) 掲載ブログの抄訳版です。

