お客様の事例 神戸大学:高性能ワークステーションによる「NVIDIA Omniverse」を使ったデジタルツイン環境構築事例

ビジネス課題

神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科では、バイオ薬品の開発・製造にかかわる技術者のリスキリングを目的に、NVIDIAのメタバースプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」を使った細胞培養検証施設のデジタルツイン構築に着手。精緻で高精細なデジタルツインを安定動作させるワークステーションが必要とされた。

導入効果

  • NVIDIA OmniverseとDell Precision 7960 Tower ワークステーションの採用により、細胞培養検証施設を精緻に再現するデジタルツインを実現
  • インフラに高い負荷をかけ続けるデジタルツインの安定稼働を実現
  • 教育教材としてのデジタルツインの安定したパフォーマンスと実用性を確保

「NVIDIA Omniverseをベースにした精緻なデジタルツインは、さまざまな分野の研究開発や人材教育での応用が期待できる仕組みです。そのデジタルツインを安定して稼働させられるDell Precision 7960 Tower ワークステーションは、我々にとって非常に魅力的なインフラといえます」

神戸大学
大学院科学技術イノベーション研究科
教授 工学博士
永田 真氏
神戸大学:永田 真氏
神戸大学
大学院科学技術イノベーション研究科
教授 工学博士
永田 真氏
神戸大学:内田和久氏
神戸大学
大学院科学技術イノベーション研究科
特命教授
内田 和久氏

先端技術の研究開発能力と起業家精神の一体化を目指す

神戸大学の大学院科学技術イノベーション研究科は2016年に創設された、神戸大学の中で最も新しい研究科だ。同研究科について、同研究科の教授で工学博士の永田真氏はこう説明する。

「当研究科では、先端科学技術の研究開発能力とともに、研究成果を事業化して新たな価値を創造できる『起業家精神(アントレプレナーシップ)』を備えた理系人材の育成を目指しています。また『バイオプロダクション』、『先端膜工学』、『先端IT』、『先端医療学』という自然科学系の4分野とアントレプレナーシップを相互に融合させながら、新たな科学技術や学問領域を生み出すとともに、人材育成・研究開発・事業化が効率的に循環するイノベーションエコシステムを築くことも追求しています」

こうした活動の一環として同研究科が展開している1つが「理系社会人(先端理系人材)のイノベーション指向リスキリング」の講座だ。これは、2023年に文部科学省の「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」の採択を受けてスタートした教育カリキュラムでもある。その内容について、永田氏は「企業の研究所などで一定の成果を上げた人材に新事業創出のノウハウ、スキルを身に付けていただいたり、先端の理系人材にさらなる専門知識や、どの分野でも応用できる新しい手法を習得・体験していただいたりすることを主旨としています」との説明を加える。

このうち、理系人材に体験してもらう「新しい手法」として同研究科が提供しているのがメタバースである。

神戸大学:細胞培養検証施設をリアルに再現したデジタルツインの画像例

「NVIDIA Omniverse」により細胞培養検証施設のデジタルツインを構築

メタバースをリスキリングの題材とした理由について永田氏はこう明かす。

「メタバースの技術を使ったデジタルツインは、実世界の物事をデジタル空間でそのまま再現する手法です。この手法は製造プロセスのシミュレーションによく使われていますが、多様な領域での応用が可能であり、その可能性をさまざまな分野の研究者に体験してもらいたいと考えました」

この考えに呼応し、メタバースによるデジタルツインの実現に協力した1人が、科学技術イノベーション研究科の特命教授でバイオプロダクションを専門とする内田和久氏だ。

「永田教授からデジタルツインに関する相談を受けたとき、この手法がバイオプロダクションにおける人材育成やリスキリングに非常に有効であると感じました。バイオプロダクションの研究領域にはバイオ薬品の開発・製造技術が含まれていますが、それらの技術に精通した人材は少なく、かつ、技術を学ぶためのオープンな検証施設もほとんどありません。デジタルツインは、その問題を抜本的に解決できる手法だと思い、永田教授の取り組みへの参加を決めました」(内田氏)

内田氏の協力を得た永田氏は、デジタルツイン化を図る最初の対象をGMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)に適合した神戸大学内にAMED/次世代バイオ研究技術組合により設置された細胞培養検証施設に定めた。この施設は、バイオ薬品の初期製造プロセスである細胞培養や精製の手順を学ぶ場として機能していたが閉鎖されていた。ただ、神戸大学ではキャンパス内の施設についてレーザースキャナーで360度撮影した点群データを収集しており、そのデータを活用することで細胞培養検証施設についてもデジタル空間での高精度の再現が可能だった。

細胞培養検証施設のデジタルツイン構築に乗り出した永田氏らは、デジタルツイン構築用の技術としてNVIDIAのメタバースプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」を選択した。NVIDIA Omniverseでは、物体の形状や位置、表面の質感や光源などを精緻に表現することが可能で、リモートアクセスや複数人での同時操作でも3D画像をスムーズに表示することができる。また、デジタルツイン構築のITパートナーとして伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)を選び、さらに、デジタルツインを稼働させるハードウェアとして、NVIDIA RTXプロフェッショナルグラフィックスを搭載しているデル・テクノロジーズの高性能ワークステーション「Dell Precision 7960 Tower」の採用を決めた。

「デジタルツイン構築のパートナーとしてCTCを採用した理由はシンプルで、同社が日本で最も優れたITソリューションプロバイダーであると評価していたためです。Dell Precision 7960 Towerワークステーションは、そのCTCの提案に従うかたちで導入を決めましたが、デル・テクノロジーズの製品は別件で数多く使用した経験があり、そのパフォーマンスに信頼を寄せていました。それも採用の理由といえます」(永田氏)

こうしてプロジェクト推進の陣容を固めた永田氏は、2023年2月から約8カ月をかけて仕様固めと発注手続きを完了させ、次の約6カ月間で構築とテストを行い、2024年3月にデジタルツインの本番運用へと至っている。

「薬品の開発・製造の発展に資するオープンな検証施設を提供することは大学の使命です。 NVIDIA OmniverseとNVIDIA RTXプロフェッショナルグラフィックス搭載のDell Precision 7960 Towerワークステーションを土台にした今回のデジタルツインの構築、運用によってその使命の一端が果たせたと見ています。 薬品の開発・製造の領域では、制度的な問題からAIの活用が進んでいませんが、それが進展すれば、デジタルツインとAIの融合によって薬品の開発・製造プロセスが劇的にスピードアップするかもしれません」

神戸大学
大学院科学技術イノベーション研究科特命教授
内田 和久氏

Dell Precision 7960 Towerワークステーションがデジタルツインの安定稼働を支える

今回構築されたデジタルツインは、あらかじめ設定されたシナリオに基づきながら、ユーザーの操作・指示に従って細胞培養検証施設の動きを精緻に、かつ高精細で再現する仕組みだ。

デジタルツイン内でのモノの動きは、ユーザーのアクションや物理法則に則った計算処理によってリアルタイムに表現される。また、施設内にある実験装置のかたちや動きも、装置メーカーから提供されたデータを使い精緻に再現されている。さらに、装置の使い方や細胞培養の手順が分からないユーザーのために、内田氏が監修したガイダンスが適宜表示される仕組みも組み込まれている。

こうしたデジタルツインの仕組みについて、永田氏はこう評価する。

「デジタルツインでは、全てのモノの動きに『嘘』がなく、実世界の環境をありのままに再現します。今回構築したデジタルツインも細胞培養検証施設を忠実に再現できていて、その場で実験の手順を間違えれば、間違えたとおりの結果が返されます。こうした環境があればリアルの実験場に行かずとも、実験の手順が体験として把握でき、その知識をリアルな実験場で生かせます。デジタルツインは人材の育成、リスキリングの場として非常に有効であると感じています」

また、デジタルツインの再現性と教材としての実用性を担保する上では稼働インフラの高い処理性能と安定稼働が欠かせない。永田氏は、その要件を満たしているDell Precision 7960 Towerワークステーションを高く評価する。

「NVIDIA Omniverseを使ったデジタルツインはインフラに高い負荷をかけ続けるので、NVIDIAのGPUの能力を最大限に引き出しながら、安定した動作が続けられるような仕組みでなれば運用は困難です。その点で、Dell Precision 7960 Towerワークステーションは非常に安定してデジタルツインを動作させており、その運用に適した素晴らしい製品であると評価しています」(永田氏)

神戸大学:Dell Precision 7960 Tower ワークステーション

VRの実現やインフラの増強を視野に

永田氏は、デジタルツインの機能拡張としてVR(仮想現実)の技術を取り込むことを計画している。この点について、永田氏は「教育用の環境は学習する側に興味を持たせることが大切で、デジタルツインにおけるVRの実現はそのための有効な手だてです。実現に向けた作業を鋭意進めていきます」と説明する。

加えて永田氏は、多数のユーザーが同時並行でデジタルツインを利用するための環境を整えることも視野に入れている。その構想を踏まえつつ、デジタルツイン環境の今後についてこう展望する。

「多数のユーザーによるデジタルツインの並行利用を推進する上でも、VRを実現するにせよ、そのためのインフラのキャパシティをどう確保するかがカギの1つです。そう考えると、今後、デジタルツインのインフラを拡張しなければならなくなるのは明らかで、デル・テクノロジーズの貢献に大いに期待しています」

細胞培養検証施設のデジタルツインの安定稼働を支えている Dell Precision 7960 Tower ワークステーション